南相馬避難解除問題弁護団の解説です。1これはどんな訴訟ですか?
この訴訟は、国が用いた年間20ミリシーベルトという基準による避難解除の是非が直接の争点となる初めての裁判です。2014年12月、政府は、南相馬市の「特定避難勧奨地点」について、年間積算被ばく線量が20ミリシーベルトを下回ることが確実になったとして、すべて解除し、その後順次支援策や賠償を打ち切っています。
地点に指定されていた世帯や近隣の世帯合計808名が、解除の取消しなどを求めて、2015年4月・6月に、国(原子力災害対策現地本部長)を相手取って提訴しました。
2 訴訟での原告の主張は?
原告は、20ミリシーベルト基準での特定避難勧奨地点の解除は、次の3点から違法であると主張し、その取消し等を求めています。
①公衆の被ばく限度が年間1ミリシーベルトを超えないことを確保するべき国の義務に反する。
②政府が放射線防護の基準として採用している国際放射線防護委員会(lCRP)の勧告に反する。
③政府が事前に定めた解除の手続(新たな防護措置の実施計画の策定、住民等の意思決定への関与体制の確保)を経ることがないまま解除を強行した。
3 訴訟の現状は?
9月28日に開かれた第1回口頭弁論では、原告の訴状と被告の答弁書の陳述が行われました。答弁書には、訴訟要件(そもそもこのような裁判はできないという入り口論)の反論しか記載されていませんでした。
その後、被告は12月未に第1準備書面を提出し、本論(解除の違法性)について反論し、ようやく本論が始まるところです。原告からは、訴訟要件を満たしていることを主張する準備書面(1)を提出しました。
4 被告はどんな反論をしているの?
被告は、年間20ミリシーベルト基準による解除の是非について、いかなる基準で実施するかは行政庁の広範な裁量にゆだねられているところ、特定避難勧奨地点の解除は、合理的基準に基づき、十分な手続きを経て実施された合理的なものであり、また事後的手当もされていることを理由に、裁量権の逸脱又は濫用が認められないと主張しています。
被告が主張する年間20ミリシーベルト基準による解除の合理性の根拠は次のとおりです。
①年間20ミリシーベルト基準は、国のワーキンググループの報告においても、他の発がん要因によるリスクと比べても十分低い水準である等と報告されていること
②同基準は、政府が、tCRPが勧告する参考レベルの範囲のうち、最も厳しい値を採用した基準であること
しかし、年間20ミリシーベルトの被ばくによるリスクは決して十分低いとは言えませんし、これはICRPが定める現存被ばく状況における参考レベルの最大値です。
今後弁護団では、これら被告の反論について反駁し、加えて現地の汚染状況や住民が置かれている苦境等について主張・立証を行っていく予定です。
なお、被告第1準備書面は、本日の期日後に南相馬・避難20ミリシーベルト基準撤回訴訟支援の会のウェブサイトで公開予定です。
5 原告の意見陳述が認められないって聞いたんだけど…?
第1回弁論で認められた原告の意見陳述について、昨年末に、裁判所が今後の実施を認めないという方針を示したため、1月8日、裁判所に対し、弁護団による意見陳述の継続を求める意見書、原告の署名367筆および支援の会の要請書と賛同署名1109筆を提出しました。
6 本日の期日では何が行われるの?
原告が提出した準備書面について弁護団から内容を説明するほか、被告の準備書面の問題点を指摘し回答を求めます。また、原告の意見陳述についても、裁判所に対して継続するよう弁護団・原告から要請します。
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